訓練の心構え
JOSHAのパピーカウンセリングが3回目を過ぎた頃、JOSHAに1つの問題行動が現れた。散歩に出かけると、いろんなものに興味を示し、私をぐいぐいと引っ張り、あっちにふらふら、こっちにふらふら、振り回されるのである。もうそろそろ、引っ張らない練習をしなければならないようだった。里さんに相談すると、「そろそろ本格的な訓練を始めましょう。」と言われ、チェーンカラーと皮のリードを準備するように言われた。
1.ショックを与える
ぐいぐい引っ張るJOSHAに対して、ショックを与える事を教わった。ショックについては、他の訓練書でも読んでいて言葉は知っていたが、どんな時、どんなタイミングで、どの程度、という事は実際に教わらないと難しい。
一旦、リードをたるませておいて、JOSHAが前に走り出た時に、「NO!」と言って、リードをパン!と引く。そして、JOSHAが戻ったところで「GOOD!」と思いっきり誉める。1回目のショックをやった時、JOSHAは一体何が起こったのだろう、とびっくりした様子で私の所へ戻ってきた。始めから散歩コースをすべて、このやり方をしていても、人間の方も犬の方も集中力がなくなってくる。最初は、公園で練習したり、散歩コースのここからここまで、と範囲を決めて、みっちり練習する事が有効である。そして、ショックを与える事なく、「NO!」という言葉だけに反応するようになる。
2.めいいっぱい誉める事。
JOSHAにとってその頃、覚える事がたくさんあった。こちらはいろんな事を教えようと必死なのだが、犬にとって、それが何かわかるまで「何の事やらさっぱりわかりません!」という世界である。例えば、お座りを教えようとした時、最初から完璧な姿を求めてはいけない。犬が「こうかな、こうかな。」と迷いながら、腰を少しでもおとそうとした瞬間、まずは誉めるように、言われた。またその誉め方も大げさにばか騒ぎをしなくてはいけない。おそらく周りの人が「あの人、一体何やろ?」と思う位。しかし、この『できそうな瞬間』を見極めるのも難しく、里さんから、「今だよ。あー、もう遅い!」と何度も注意された。そして、めいいっぱい誉める事もなかなか難しい事だ。犬だけに教える試練を与えるのではなく、自分自身も難しい試練を与えられたような日々だった。
3.毎日が同じ事の反復練習
明日は、お座り、その次は、つけの練習。まず無理な話だ。1つの事を教えるのにずいぶんと時間がかかるものだ。例えば、お座りを教える事は、伏せに比べれば、楽な事ではあるが、家の中でお座りができても意味はない。つまり、いろんな所で、いろんな状況で長い時間、お座りができるようになる、にはそれ相当の時間と、毎日の練習が必要になってくる。別に家の中でお座りができればいいじゃない、と言われればそれまでだが、結局、それはお座りが、1つの芸にしかすぎない。このあたりが、前に述べた、アメリカ人の犬に対する共通した常識みたいなもの、また訓練学校が教える基本的な事、の意味合いなのだ。
毎日、毎日、私は習った事のすべてを反復練習した。毎週1回、里さんは来るが、その時1週間の経過を見られる。練習をさぼっていれば、ばればれだ。毎日の練習は、私にとっての宿題だった。
4.NO!の有効性
訓練が進むにつれて、JOSHAもいろんな事を覚えてくるが、悪知恵も働くようになっていた。私がどんなに「NO!」と言っても、なかなか言う事を聞かなかったり、言う事を聞いても、次の瞬間、もう違う事をしている。結局、私はNO!の連発である。里さんから言われた。「NO,NOを連発するのではなく、1発で聞かさないと。」そして、もっとJOSHAを訓練に集中させる事、一発で聞かせるためにガツン!とする方法を教わった。
これは、スーパーでよく見る風景だと思った。買い物中に子供が暴れだし、当然、お母さんは、「そんなに言う事を聞かないんだったら、連れて来ないよ。」とか、もしくは「帰るよ。」とか子供に注意する。しかし、そう言っている一方、お母さんは買い物に夢中である。子供は依然、暴れっぱなしである。結局、子供にとって、お母さんの注意は、お母さんの口癖にしか聞こえないのである。
私のJOSHAに対する「NO!」もJOSHAにとって、私の口癖にしかすぎないのである。
里さんが言う一発できかせる、NOの有効性は簡単なようで難しい。いつもどうしたら、NOがJOSHAにとって有効になるのか、考えていた。私はアメリカ人の友達の家での出来事を思い出した。そこには一番下のAlexという当時4歳の子供がいた。悪戯盛りである。しかし、ついついその悪戯が度を過ぎてしまう事がある。するとお母さんの「NO!」が響く。日本のお母さんが、「いけない!」と大きい声で言うのとは違い、そのNO!は落ち着いた声で、重みのある太い声だ。Alexの表情からはさっと笑みは消え、自分の部屋に入って静かにしている。これが一発できくNOなのだ。私は甥と姪にこれを試してみた。その日、2人はテレビを見ながらご飯を食べていた。テレビに夢中になり、食が進まない。義姉は「テレビを消すよ。」と言うのだが、全然聞く様子はない。私は、無言でテレビを消し、2人の頭に一発ずつ、ゲンコツを与えた。2人はそそくさとご飯を食べ始めた。
5.犬の集中力は15分〜20分
里さんの訓練は、1回が1時間である。1時間の内、家からJOSHAとの散歩の様子を後ろから観察され、練習場所の公園へ着くと、まずJOSHAを遊ばせ、遊びの途中で呼び込みの練習をし(COMEの練習)、脚側行進やその他の練習をする時間は15分程度である。あまり長い時間、練習を続けても集中力がなくなり、意味がなくなってしまう。その15分間、どれだけ集中させるかが、ポイントである。そこには、3のような、めいいっぱい誉める事と、4の有効なNO!をうまく使いわけなければならない。そして、その緊張の15分間が終わると、めいいっぱい、犬と遊び、訓練は楽しいものだ、という雰囲気を犬に残すように指導された。
6.そして物品持来までできた
結局、私はJOSHAの訓練に相当はまってしまう。5つの基本コマンドSit(座れ)
Down(伏せ) Stay(待て) Come(来い) Heel(つけ)を習得した後も、ハードル飛びやダンベルの持来等も教える事になる。しかし、これら1つ1つの上級練習でも5つのコマンドがなければ、教える事は難しいし、ここでもしっかり誉める事、有効なNOがない事には達成できないのである。